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法人ではない、一人親方への支払いは税務調査でもチェックされる
2019.12.26
一人親方への支払いは、税務署が気にする論点
建設業の税務調査で、指摘事項となる頻度の高い論点で、“給与”と“外注費”の区分の問題があります。法人への支払いの場合は、この問題は起きませんが従業員を雇用していない、いわゆる一人親方に支払う報酬が論点となります。
いわゆる、大工、左官、とび職といった、建設・据付け・組立てなどの建設作業を受け持つ個人事業者への支払いは外注費で問題ないのですが、支払い方法が時給であるとか交通費実費を負担しているケースなどは個人事業者ではなく、給与とみなされることがあります。請負先以外の仕事を一切していない、いわゆる「専属外注の個人」は、個人事業者の体を成していないことがあるからです。
給与と外注費は、その扱いに大きな違いがあります。下記にまとめてみました。
給与 外注費 社会保険料 会社負担(健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険) 全額本人負担(国民健康保険・国民年金) 源泉所得税 会社で源泉徴収が必要 会社での源泉徴収の必要なし 消費税(10%) 含まない 含む 例えば、月50万円の人工代を払うときの、会社の負担は下記のとおりです。
給与 外注費 社会保険料 72,200円 全額本人負担(国民健康保険・国民年金) 源泉所得税(甲欄) 18,710円 源泉徴収の必要なし 消費税(10%) 給与なので含まない 50,000円が課税仕入(税別経理の場合)
(社会保険料)
会社と社員(給与所得者)との折半負担なので、実際に支払うときは、72,200✕2=144,400円。一方、外注費の場合は、本人が負担するため、会社の支払はありません。
(源泉所得税)
会社は従業員の給与から源泉所得税を徴収する義務があります。今回の事例では、18,710円、原則翌月10日までに納税が必要となります。納期限に1日でも遅れると、不納付加算税(最大10%)のペナルティが発生するので注意が必要です。
(消費税)
給与は、当たり前ですが消費税がゼロの経費です。一方の外注費については、消費税率10%分の、今回の事例であれば50,000円を課税仕入とすることが可能となります。課税仕入れとするとは?という質問をいただくことが多いのですが、課税仕入れが増えると税務署に納付する消費税は少なくなります。消費税は、売上にかかる消費税から経費にかかる消費税を差し引いた差額を税務署に納税するというのが基本的な考え方になります。そのため、人材派遣会社などの経費が人件費ばかりの会社の消費税額は非常に多くなるわけです。
社会保険等の法定福利費の上昇や消費税率10%への増税。最低賃金のアップに伴い、給与と外注費の区分については、慎重に判断をしていく必要があります。外注費とした時点で法定福利費がなくなり、源泉徴収の必要もない。最低賃金法の影響も受けない。それならば外注費扱いしておいた方が得だよね、という安易な判断をされる方もいますが、給与と外注費のいずれに該当するかは、形式的に判断することなく、実態を精査したうえで、処理することが必要です。
給与or外注費の判断をするポイント
間違った判断をすると遡って大きな納税が必要となる可能性のある、給与と外注費。どちらに該当するかというだけで大きな違いが生ずることは、ご理解いただけたと思います。
どのように区別すべきなのかは難しいところですが、外注費(事業所得)は、請負契約などに基づいて元請先から支払われるもので、自身の計算によって営利性を求め、それに対するリスクも自身が負うというイメージになります。給与所得は、雇用契約に基づいて雇用主から賃金が払われるもので、使用者からの空間的、時間的な拘束を受けるが、リスクも追わないというイメージになります。実務上は、どちらの要素が強いのかを「総合的に判断」することが必要となってきます。
そうは言っても、総合判断ってどうやるの?ということになるので、判断基準の一例を示しておきます。あくまで総合判断になるので、1個×がついたから該当しない、というわけではありません。どの要素が強いかにより判断することになります。(※東京国税局平成15年7月第28号法人課税課速報 より抜粋)
判断する内容
給与 外注費 契約の内容は他人との交代が可能か(再外注ができるか) ✕ ○ 仕事をするにあたって、個々の作業に対して指揮監督を受けるか ○ ✕ 現場の作業が完了してから代金の請求をするか ✕ ○ 材料・工具などが無償支給か ○ ✕ 雇用契約又はこれに類する契約等を結んでいる ○ ✕ 営利性はあるか ✕ ○ 元請での役職があるか ○ ✕ 通勤手当の支給はあるか ○ ✕ ユニフォームや制服の支給はあるか ○ ✕ 他の取引先でも同様の業務をしているか
(専属外注ではない)
✕ ○ 従業員を雇用しているか(事業規模) ✕ ○ 元請先の従業員と同様の福利厚生を受けることができるか ○ ✕ 時間外手当や賞与の制度はあるか ○ ✕ 報酬の最低保障制度はあるか ○ ✕ 請求書は自身が作成しているか ✕ ○ 作業時間の指定はあるか ○ ✕ 作業場所の指定はあるか ○ ✕ また、「大工,左官,とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いに関する留意点について」にも同様の視点で書かれたQ&Aが記載されています。こちらも参考になります。特に作業時間・場所の指定というのは、工事現場では当たり前のことで、むしろ指定がない現場や監督者がいない現場というのは通常ありません。そこについての解釈が記されているのも興味深いです。
結論としては、建設業に関していえば、現場が指定されていたり、作業時間が指定されることは当然のことで、その要素のみで判断されることはありません。
名ばかり外注とは、こんなケース
逆に、外注費処理しているけど実際は給与でしょ?と税務調査で指摘されやすい、「名ばかり外注」は下記のようなケースです。要は形式だけ外注扱いでも、従業員と同じ扱いをしていれば、やはり給与になるということです。難しくはありません。
①固定金額で払っている(月給と変わらない)。
②外注なのに、社内に出勤簿(タイムカード)がある。外注者のスケジュール表が従業員と同じように管理されている。
③通勤手当を払っている、健康診断を受けさせている。
④仕事が完了しなくとも報酬が払われている(休んでも補償される)。外注費としていたものが、税務調査で給与と認定された場合、税金にどのような影響が出るのでしょうか。
(源泉所得税の影響)
給与の場合、徴収する義務が会社にあります。その分の納税が行われていないため、遡って納税が必要となります。さらに、不納付加算税(10%)と延滞税(8.9%)の納税も必要となります。なお、実務的には、税務調査で払うことになったからといって、過去に遡って徴収することは困難であるため(仕事を辞めてしまうリスクがあります)、会社で全額負担するという事例が散見されます。(消費税の影響)
前述した通り、給与には消費税は含まれないため、外注費の課税仕入れはできないことになり、課税仕入れにしていた分、全て修正が必要です。外注費×10%の追加納税が求められます。給与・外注費の区分が変わると、追加の納税額が想像以上に増える可能性が高い論点であり、判断を間違えないようにしたいところです。
next.建設現場での日払い給与には2パターンあります。
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