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特定建設業の許可を得るときに増資するケース
特定建設業の財産的基礎
一般建設業から特定建設業に許可基準をランクアップさせたい。そうすれば、もっと大きな工事の受注ができる!
外注を一切使わず、自社で完全施工する元請工事であれば、特定建設業の許可を得なくとも良いのですが、現実には建設・建築現場には下請けの業者なしでは進められないことが多く、相応の規模の工事を外注するには、特定建設業の許可が必要となります。
この相応の規模の工事というのは、下請け業者へ支払う金額が4,000万円以上(建築一式工事では6,000万円以上)となる工事です。
そのような大きな規模の工事を受注し、かつ外注業者に仕事を依頼するうえで、当然「資金繰り」の問題がでてきます。売上の回収は中間金(前金)があったとしても、最終的には完工後にようやく全額回収となりますし、完成したら即入金されるわけでもありません。
それでも外注業者への支払いはしていかないといけません。特に昨今では、工事の受け手が不足しているため、発注側も支払い条件などは外注先の要望をある程度受け入れることも必要になります。
つまり、入金が遅いのに支払いは早いということが普通に起きます。そのような状況でも支払いが滞らない会社でないと、元請会社として不適格だと考え、一定の財務基盤を持つ会社しか特定建設業の許可を得ることができないようにしたわけです。具体的には下記の4つの要件(財産的基礎)をすべて満たすことが求められます。
①資本金 2,000万円以上
②純資産合計4,000万円以上(貸借対照表の純資産の部の数値)
③流動比率 75%以上(貸借対照表の流動資産÷流動負債)
④欠損比率 20%以下(貸借対照表の繰越利益剰余金がプラスの場合は不要。)これらの4要件を満たした状態での決算書が必要となります。これをクリアするために最も効果的なのが増資です。文字どおり資本金を増やすことです。特に①をクリアできてない会社の場合は何がなんでも資本金を増やすしかありません。
資本金を増やすには、次の2つのやり方があります。
A.新たに現預金を用意して出資(普通増資)
・・・通常は、既存の出資者が用意。中小企業であれば経営者親族が多い。
B.負債の部に放棄しても良いものがあれば、資本金に振り替える(借入金の資本組入)Aの場合は、単純に会社は外部から資金(追加出資)を受け入れるだけです。受け入れた資金を資本金とし、追加出資した者は資金提供した代わりに新規発行株式を受け取ることになります。
Aができるのであれば、それに越したことはありません。会社も実際のキャッシュが増えることになり、経営基盤が強くなります。問題はAができないときです。端的にいえば、出資者であるオーナー経営者個人に資金が不足していて、会社に追加資金が提供できないときです。
借入金の資本組入(現物出資)
例えば、下記の財務内容の会社があるとします。特定建設業の要件を満たすには資本金が500万円不足している状態です。会社としては経営者が500万円資金を提供(会社から見れば借りている。経営者から見れば貸している状態)です。
この負債である500万円は、経営者から見れば「貸付金」という財産です。500万円の価値がある財産を会社へ、キャッシュの代わりに出資するイメージです。いわゆる現物出資と呼ばれるものでキャッシュがないと増資できないわけではありません。この貸付金を現物出資することを、会社視点から見ると「借入金の資本組入」と呼ばれます。DES(Debt Equity Swap)という表現もありますが同じことを指します。
借入金を資本組入れした後の貸借対照表は、下記となります。500万円の借入金が無くなり、代わりに資本金が500万円増えています。これで特定建設業の財務的基礎をクリアできるわけです。資本金2,000万円、そして純資産4,000万円(資本金プラス利益剰余金)を満たせたわけです。
経営者は貸付金が消滅したことで、会社から資金を返金してもらうことはできなくなりますが、前述したとおり代わりに会社の新規発行株式を受け取ることになります。また、債務が減ることになるので流動比率が向上する効果もあります(貸借対照表において借入金を流動負債として表示している場合に限ります)。
この借入金の資本組入は、現在はポピュラーな増資方法ではありますが、実務上、注意したい点もあります。このケースでは500万円以下なので何も問題はありませんが、500万円を超える場合は、弁護士や公認会計士・税理士からの証明書が求められます。要は、本当に500万円を超える価値のある資産なのかを証明してもらうということです。顧問会計事務所に対応してもらうのが通常です。
また、特定建設業の許可を検討する会社で繰越利益剰余金がマイナスという状態は、めったにないと思いますが、その際には④欠損比率20%以下をクリアする必要があるので注意が必要です。その場合には増資だけで②純資産4,000万円の要件クリアするのではなく、純粋な債権放棄も組み入れた方が良いでしょう。
●欠損比率20%超えているかの判定式(下記判定式を満たすとNG)繰越利益剰余金の絶対値(マイナスを取った数字)-(資本剰余金+利益準備金+任意積立金を除いたその他利益剰余金)> 資本金×20%
会社としては借入が減る意味では増資と同じですが、資本金そのものではなく債務免除を受けることになります。債務免除益という特別利益が生ずることになり、資本金ではなく利益剰余金が増えることになります。また、増資は登記が必要になりますが、債務免除の場合は登記は不要です。
債務免除益は会社としては利益になるので、法人税の課税対象になります。会社に欠損金が残っているときでないと不要な課税が生ずることもあるので、免除前に法人税申告書に記載された繰越欠損金の残高を確認し、その範囲内での免除なのかを確かめた上で実行しましょう。
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